通勤時間を『自分の時間』に変える──警備員の私が実践する移動中の過ごし方

1 心と習慣

毎日の通勤時間、みなさんはどのように過ごしているでしょうか。

満員電車のなかでスマートフォンを手に取り、SNSの投稿をただ眺めていることもあると思います。何も考えずにぼんやりと窓の外の景色を見つめている方もいるでしょう。車の運転席で渋滞に巻き込まれ、ため息をつきながらラジオの音に耳を傾けている方もいるでしょう。

「また同じことの繰り返しか」と感じて、どこか虚しさを覚える瞬間もあったと思います。私もかつては、通勤時間をただ無駄に消費されるだけの時間だと思い込んでいました。

現在、私は福岡で警備員として働いています。仕事とはいえ生活リズムが不規則になりがちで、職場までの道のりも決して近くはありません。疲れた体を引きずって帰宅する際、移動時間がなければもっと早く休めるのに…と何度も思っていました。

それでも、ある時ふと考え方が変わりました。

「この通勤時間は、誰にも邪魔されない自分だけの時間なのかもしれない」と感じたのです。

職場では周囲に気を配り、帰宅後は家事など細かな用事に追われています。そう考えてみると、通勤時間という“移動のためだけ”の時間が、実はぽっかりと空いた貴重な余白の時間に思えてきました。

この記事では、毎日の通勤に疲れを感じている方に向けて、私がこれまで試してきた通勤時間の過ごし方をお伝えします。特別なことではなく、今日からでも無理なく取り入れられることばかりです。

少しでも、通勤時間が心穏やかなひとときになることを願っています。

1. 「何もしない」をあえて選ぶ時間

通勤時間を充実させたい気持ちが強いと、つい「何か生産的なことをしなければ」と焦ってしまいがちです。資格の勉強をしたり、ビジネス書を読んだり、ニュースをチェックしたり。もちろん、それらの過ごし方も素敵だと感じます。[1]

けれども、毎日の疲れが抜けない時は、まず「何もしない」時間を持つことが思いのほか心身に効くことがあります。

空間に余白がないと新しい風が入ってこないように、人の心も同じようなものだと感じています。情報や考え事で頭がいっぱいのままだと、どこか落ち着かないものです。だからこそ、通勤の短い時間でも、あえて「何もしない」を選んでみる。意識的に頭の中を空っぽにする時間です。

電車の中で目を閉じて、ただ揺れに身を委ねる。
車の運転中、音楽を消してエンジン音だけに耳を傾けてみる。
歩きながら、足の裏が地面に触れる感覚に意識を向けてみる。

最初は「時間を無駄にしている」と感じることもあると思います。しかし、情報を遮断して心を静める時間を持つと、疲れた心が静かにほぐれていくのを実感できます。

2. 音声コンテンツで耳からインプットする

「何もしない」時間に慣れてくると、少しずつ新しい情報を取り入れたくなる日もあります。そんな時におすすめなのが、音声コンテンツの活用です。満員電車で本を開くスペースがない時や、車の運転中で手が塞がっている時でも、耳からのインプットなら無理なく続けることができます。

最近は、ニュースの解説や語学学習、著名人の対談、さらには小説の朗読など、多種多様な音声コンテンツが揃っています。私はその日の気分に合わせて、リラックスしたい時は穏やかなトーンのラジオ番組を、少しモチベーションを上げたい時はビジネス系のポッドキャストを選ぶようにしています。

音声コンテンツの良いところは、視覚を奪われない点です。目を閉じたまま耳だけで情報を得ることができるため、目の疲れを感じやすい夕方の通勤時間にも適しています。また、パーソナリティの肉声を通して情報を受け取ることで、活字を読むのとは違った温かみや親しみやすさを感じることができ、孤独な通勤時間を少しだけ豊かなものに変えてくれます。

3. 通勤時間を快適にする小さなアイテム

通勤時間を「自分の時間」として楽しむためには、環境を整えることも大切です。ちょっとしたアイテムを取り入れるだけで、移動中のストレスは大きく軽減されます。

私が重宝しているのは、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンです。電車の走行音や周囲の話し声を物理的に遮断することで、自分だけの静かな空間を作り出すことができます。音楽を流さなくても、ただ耳栓代わりに使うだけで、頭の中が驚くほどクリアになります。

また、お気に入りの香りを持ち歩くのも効果的です。ハンカチに数滴のアロマオイルを染み込ませておいたり、携帯用のロールオンタイプの香水を手首にサッと塗ったり。満員電車の息苦しい空間でも、自分の好きな香りがふわりと漂うだけで、呼吸が深くなり、緊張が解けていくのを感じることができるでしょう。こうした小さな工夫の積み重ねが、通勤の疲労感を和らげてくれます。

4. 季節の移ろいを五感で味わう

通勤ルートは毎日同じ景色が続きます。見慣れた建物や人の流れ、変わらない看板。飽きてしまうのも無理はありません。

ですが、少し視点を変えてみると、周りには小さな変化がたくさんあることに気づきます。スマホから顔を上げ、イヤホンを外して周囲の空気や音、匂いに意識を向けてみてください。

駅までの道で、街路樹の葉が色づき始めたのにふと気づいたり、いつもより空気が冷たくてマフラーをきつく巻き直したり。夕暮れの空のグラデーションに見とれて、思わず立ち止まることもあります。昨日はまだつぼみだった花が、今日は咲いている。そんな小さな発見が、単調な日々にささやかな彩りを添えてくれます。

五感を通じて季節を感じる瞬間は、自分が「今、ここにいる」と実感できる貴重な時間です。過ぎ去った過去を悔やんだり、先の不安に押しつぶされそうになったりすることなく、ただ今の季節を味わう。この営みが、ざわついていた心を静かに落ち着かせてくれています。

5. 自分に優しくする時間

通勤時間の中で私が最も大事にしているのは、自分自身を労う時間です。

早起きして身支度を整え、車に揺られ、職場で責任を果たし、疲れた身体を引きずって帰宅する。それだけでも立派なことだと感じます。特に帰り道は、一日の疲れがどっと押し寄せる時間帯です。「今日もうまくいかなかった」「あの時、ああ言えばよかった」と、一人反省会になってしまうこともあるでしょう。

そういう時は、自分に優しい言葉をそっとかけるようにしています。

「今日もよく頑張ったね」
「疲れたけど、無事に終わってよかった」
「明日は今日より少しだけいい日になる」

心の中で自分を抱きしめるような感覚です。

私の場合、帰りにコンビニで温かいコーヒーを買うことがあります。冷えた手をカップの温もりで包み、一口ずつゆっくり味わう時間は、一日中気を張って働いた自分へのささやかなご褒美です。「お疲れ様、私」と心の中で繰り返しながら飲むコーヒーは、深く沁みわたります。

通勤時間は、職場という「公」の場から、家庭という「私」の場へ切り替わるための大切なグラデーションの時間でもあります。仕事モードで緊張していた心を解きほぐし、自分を労うことで、家に着いたときに少しだけ穏やかな気持ちで家族や自分に向き合えています。

6. 通勤中のマインドフルネス呼吸法

「何もしない」時間に加えて、私が実践しているのが、簡単なマインドフルネス呼吸法です。立っていても座っていても行うことができます。

方法はとてもシンプルです。目を軽く閉じるか、視線を少し落として一点をぼんやりと見つめます。そして、自分の呼吸にだけ意識を向けます。鼻からゆっくりと息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます。そして、口から細く長く息を吐き出しながら、体の中の力みやモヤモヤした感情が外へ出ていくのをイメージします。

周囲の雑音や「今日の仕事の段取り」といった雑念が浮かんできても、それを無理に打ち消そうとせず、「あ、今考えていたな」と客観的に気づき、再び呼吸に意識を戻します。これを数分間繰り返すだけで、自律神経が整い、ざわついていた心が凪のように静まるのを感じられます。目的地に着く頃には、頭の中がすっきりとリセットされ、清々しい気持ちで一日をスタートさせることができます。

まとめ

通勤時間はただ過ぎ去っていくだけの時間ではなく、自分自身を整えるための小さな余白になります。私が経験したのは、「何もしない」「音声コンテンツを楽しむ」「アイテムで環境を整える」「季節を感じる」「自分を労う」「呼吸を整える」といった過ごし方です。どれか一つでも取り入れると、毎日の見慣れた通勤の景色が少しずつ変わって見えてくるものだと感じています。

忙しい日々の中で、通勤時間を見直すことは、自分の心や体に優しさを向けることにつながります。通勤時間が穏やかな時間になれば、日々の暮らしもまた少しだけ豊かになるのではないでしょうか。

通勤時間を自分の時間に変える

あわせて読みたい

姉妹サイトの関連記事

参考文献・出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました